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      Dai Sako×Erika Karata
      KISS ME AT DEAD OF NIGHT

      Kentaro Yamagishi×Ryuhei Watabe
      IMITATION YAKUZA

      Masashi Komura×Yua Shiraishi
      IN OUR OWN LITTLE WORLD
憂鬱と感傷についての3つのショートストーリーズ。
映画小品集|三篇『無情の世界』

      監督 佐向大/山岸謙太郎/小村昌士
      出演 唐田えりか/渡部龍平/白石優愛
      エグゼクティブプロデューサー:坂岡功士 プロデューサー:小林且弥/青木亨 メインテーマ:海田庄吾
      023年 | 日本 | カラー | 5.1ch | 116分
      企画・プロデュース:STUDIO NAYURA  製作・配給:G-STAR.PRO
6.23 Fri Roadshow
予告編
劇場情報 Twitter

About Movie


            宿命の女。
            命題を課された俳優。 
            運命に導かれるふたり。命を賭ける、
            ほどでもない3つの大冒険が、今始まる──
            
            宿命の女。
            命題を課された俳優。 
            運命に導かれるふたり。命を賭ける、
            ほどでもない3つの大冒険が、今始まる──

あまりに平凡な人生。冒険の可能性などどこにもない毎日。 しかし一旦運命の歯車が廻り出した時、退屈な日常は”無情の世界”と化し、女も男も絶体絶命の大冒険に巻き込まれていく──。

本作は、俳優・小林且弥が新たな映画の可能性を求めて立ち上げた、STUDIO NAYURAによる第一回製作作品。この記念すべきプロジェクトに、3人の気鋭の映画作家が集結。 『教誨師』『夜を走る』の佐向大はサスペンスフルでロマンチックなフィルム・ノワール。 押井守に才能を見出された『東京無国籍少女』の山岸謙太郎は、ハードボイルドでユーモラスな ヤクザ映画。『POP!』の小村昌士は、オフビートでシニカルな悲喜劇。

舞台も登場人物もテイストも異なる3つの<物語>でありながら、いずれも逆境の中で強烈な”生” が乱反射する。そんな奇跡の瞬間を切り取った、珠玉のショートストーリーズがここに誕生した。

STUDIO NAYURA 第一回製作作品
STUDIO NAYURA

Column

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我々は「欲しいもの」を求めて、無情の世界をずっと彷徨っている。

森直人(映画評論家)

 欲しいものがいつだって手に入るとは限らない。

 ローリング・ストーンズの一九六九年の名曲「無情の世界」(You Can't Always What You Want)はリフレインでそう歌っている。同曲はドナルド・トランプが演説のシメに流すことでも有名になってしまったが(もちろんミック・ジャガーらストーンズ側は「勝手に使うなよ!」と憤慨)、ともあれ三人の異能監督による三つの挿話からなる映画『無情の世界』に蠢く登場人物たちも、「欲しいもの」を手に入れられないまま、あるいは人生を変える決定的瞬間と無様にすれ違いながら生きていく。

 そんな中、佐向大の『真夜中のキッス』で映画の運動性を牽引するタフなヒロイン、ユイ(唐田えりか)は唯一の例外的=特権的存在と言えるかもしれない。劇の冒頭、真夜中の路上を疾走する車(すぐのちに練馬ナンバーだと判る)。ハンドルを握る手には赤い血。そこにせり上がるタイトル“KISS ME AT DEAD OF NIGHT"。佐向の頭にあった参照先は“KISS ME DEADLY”――『キッスで殺せ!』(五五/監督:ロバート・アルドリッチ)辺りか。後部座席に横たわる死体、かと思ったのはユイで、彼女は犯罪逃避行の相手ユウジ(栄信)と、まるで『パルプ・フィクション』(九四/監督:クエンティン・タランティーノ)のハニー・バニーとパンプキンのような構図で深夜のファミレスにて小休止を取る。そこから隣席に座っていた一筋縄ではいかぬ冴えない男・竹山(新名基浩)らが厄介事に巻き込まれていくが、誤解や打算を駆動力とする喜劇的展開はフィルムノワールのパロディのようだ。

 するりと囚われの身から潜り抜け、自由に逸脱し続けるユイは彼ら(男たち)の「欲しいもの」であり、「無情の世界」と同期した流動体であり続ける。女性を中心点に置いた構造は佐向の過去作『まだ楽園』(〇六)や『ランニング・オン・エンプティ(一〇)、そして『夜を走る』(二二)をくるっと反転させた趣だが、ヒロインが圧倒的な「他者」であることには変わりない。高性能なストーカーぶりを発揮する竹山のスマホのムービーカメラに映る、痴話喧嘩に沸くファミレスからこそっと逃げるユイ。この必殺ショットのあと、やがて彼女はナンパしてきた男の車の窓から風を、空を、世界を触るように手を伸ばす。

 所変わって、「全員、死にさらせ!」との野太い声が響き渡るどこかの屋上。坊主頭のいかつい男の顔から山岸謙太郎の『イミテーション・ヤクザ』が始まる。この主人公は渡部龍平が演じる俳優・渡部龍平。ニアイコール本人役で、彼自身が原案と共同脚本も手掛けている。現在進行形の「売れない俳優あるある」系オートフィクション――自己戯画化の要素が強いということか。渡部(ワタナベじゃなくて「ワタベ」!)が「欲しいもの」はずばり「役」だ。目立つ仕事。なるだけでかいヤツを。だが明日はヤクザ映画『シャブの帝王』のオーディションが控えているのに、マネージャーの高木さん(椎名亜音)から適当かつ鋭くダメ出しされる。「迫力だけって感じかな~。リアリティがないっていうか。なんか〝お芝居〟しちゃってるんだよね。龍平君から出てくる〝本当〟がない」。

 さて、オーディション当日の渡部龍平に起こることは、彼の間の悪さ、持ってなさ、そして本物のヤクザたちの誤解が招く運命の歯車の混乱である。いや、狂ったのは些細なスケジュールの予定だけで、大枠で考えると「リアリティをつかんでこい!」という真の好機到来なのかもしれない。たまたま「ヤクザB」で出演していた『任侠ブルース』シリーズのおかげで「役者やっていて良かった!」的な歓喜も不意に味わいつつ、結局は後輩俳優の松本君(田中俊介)と共に修羅場を体験する。果たして四十歳のボンクラ俳優はそれを貴重な糧として受け止め、通過儀礼の機会として活かすことができるのか? 「いい話」の予定調和を絶妙にハズす、抑制された語りの処理が秀逸だ。彼がイミテーションから「成長」したかのかどうかは、おそらく次のオーディションまで判らない。

 以上、同じビルのフロア違いで巻き起こった珍騒動に続き、今度は同じ一室の時間違いが作劇の柱として設計される。小村昌士の『あなたと私の二人だけの世界』だ。雑居ビルで開かれている、女性が変態を撃退するための護身術スクール。そのレッスンが終わると、モテない男たちを対象とした恋愛塾に交代する。言うならば矛盾&衝突する二つの世界。相性が悪い。イヤな予感しかしない。最初は護身術を学び始めたおとなしい櫻井さん(白石優愛)と、三年恋愛塾に通ってまだ彼女ができない下田君(大友律)の二焦点かと思いきや、「ある事件」をきっかけに下田君と護身術の主宰者・榎本(菊田倫行)の二焦点となり、やがては(榎本が本当にヤバいことになっちゃうので)下田君の視座に絞られていく。

 「欲しいもの」を求めて恋愛塾に淡々と通い続ける下田君はマジメだ。小村はMOOSIC LAB[JOINT]2020-2021グランプリに輝いた小野莉奈(『真夜中のキッス』のアイリだ!)主演の『POP!』(二一)でも、ピュア過ぎて周囲(偽善や欺瞞に満ちた薄汚い世間)とズレてしまう主人公を描いた。ありったけの愛おしさを込めて。下田君は不器用に日々過ごしているのに、バブル風の講師・立花(内田慈)や、楽天の広告モデルみたいな恋愛塾の卒業生・越中(渋江譲二)はヤリたい放題で楽しそうである。この世界は図々しく生きられる奴らのものなのか?

 かくして一世一代のアクションを起こし、身も蓋もない男性特有の生理現象のせいで、「性欲のバケモノ」と見做される下田君。その共犯者となる榎本コーチ。本当に悲惨である。これは#MeToo以降、勢いを増す女性のエンパワーメントの反作用として生まれた、最もみじめで滑稽な男たちの悲喜劇かもしれない。

 だが絶望するのはまだ早い。胸についた肛門から自我を持ったウンコをひり出すバケモノの話を聞きながら、この映画総体が差し出すものはワケの判らない未来に向けた、ある種開かれた物語=気分なのだと思った。ローリング・ストーンズの「無情の世界」も、先に挙げたリフレインのあとにこう続くのだ。
“But if you try sometimes well you just might find. You get what you need.”(だけど時々試していれば、いつか見つかるかも。君は「必要なもの」を手に入れているんだ。)

Mori Naoto

映画評論家、ライター。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『21世紀/シネマX』『シネ・アーティスト伝説』『日本発 映画ゼロ世代』(以上フィルムアート社)、『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)。映画パンフレットやメディアに多数寄稿。YouTube番組「活弁シネマ倶楽部」にてMCを担当。